はいかイエスか、喜んで

深夜に一人、うにもサメもいない、邪魔する誰かがいないというのはあまりにも自由で、孤独で、まるでカメラの前にいるような感覚に近いのだと思う。スタジオではもちろん、ホテルでもそんな状態だから、夜は寝れず、朝は起きれない。外は寒すぎて、部屋は乾燥している。深夜にボイシーで少数の人達との会話？（一方的だが、常に会話とは一方通行なような気もする）を楽しんでは気を落ち着かせている。深夜にお付き合いの皆様、また、振り返りで聞いていただいている皆様、深夜に失礼しております。

撮影は順調で、こだわりが本当すごい。撮影に入る前にはカット割が住んでいて絵コンテが上がっていたり、絵に対するこだわりや、照明と音、他にも様々なものへの細かいこだわりが散りばめられている。僕のようにノリでお芝居をしている人間には中々難しいことも多く、例えば音なんかは、雑音を排除して、できるだけ純粋な声のデータを要求される。足音や衣擦れ、そういう音を立てないでほしいと言われるもんだから、毎度の如く顔を真っ赤にして、「芝居を撮りたいのか、音が撮りたいのか選んでくれ！」と張り詰めた空気にしてしまう。張り詰めた弓の～とまるでもののけ姫状態である。「黙れ小僧、お前に映画は救えるか？」と。

毎朝、着替えた後にマイクを仕込んでもらう。ネクタイの裏に通して、シャツの裏にコードを這わせてテープで止めて、それを腰の後ろまで持っていき固定する。マイクのちょっとした向きで撮れる音の質が変わるため、細かく細かく調整をされる。これは音を何層にも分けて収録して、あとでクリアに編集するためのもので仕方がない（なんならそれだけこだわってくれてありがたいこと）事なのだが…。

若い女の子が毎朝毎朝、付けては直して、シャツを入れたと思えばまた出して、ネクタイを結び直す。そんな作業を何回も何日も繰り返して、僕は機嫌が悪くなってしまう。女の子は「何度もごめんなさい」と言う。本番直前に何度も直された時なんて、「ケンチャナヨ～」とは言うが僕の顔は一切笑っていない。

撮影が終わり彼女がボス（録音部の技師）に怒られているのを見てしまった。「ごめんごめん、俺は日本でもすぐ機嫌が悪くなるから気にしないで！」とフォローするが、「プロであってくれよ」と若い女の子に少し思いながら、帰り道モヤっとしていた。

プロとは一体なんだろう。

ミスをせず、プロフェッショナルを発揮し続ける事だろうか？トウキョウバイスのマイケルマン監督は、終了予定時刻を過ぎても終わらない。「もう一回、もう一回！」とまるでHANABIである。ガンニバルの片山真三監督には、何度も何度もテストをするものだから、「答えがあるなら教えてくれ、俺を試さないでくれ」と強い言葉を投げつけたのがシーズン1だったが、それに対する片山さんの答えは「僕にもわからないんですよね～、何かが違うんだけどな～」と言われて、拍子抜けして笑ってしまった。

プロってなんだろう、本当に。

それに、僕はミスもせず生きているのだろうか。確かにカメラの前でもNGは少ないかもしれない（それだけ準備してるからね！）。しかし、事務所には長く所属できず辞めてしまうし、気分の浮き沈みも激しい。カジノで大負けしてはブラックジャックの攻略本を読んでる（攻略なんて出来ないのに）。あー、そう考えたら、お芝居でも結構ミスもしてるか～、人間はいい事しか覚えていない生き物だよね。

昨夜、監督たちと生牡蠣を食べて後、ホテルで孤独に酔う暇もなくトイレにこもって吐き続けていた。顔を真っ青にしながら、涙を流しながら、便器を抱きしめながら（きたねーな、おい）。悪いもの全部吐き出して、今日からはスッキリ頑張っていこうと思う。録音部の女の子にはちょっとだけ優しくできている気がする！「マイクのボリュームを上げて良いですか？」と彼女が言う。「もちろん、喜んで」

https://youtu.be/4WCVMNBXKRA?si=uR13ySiZegOArajs